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十一月の句綴り

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11/1  空っぽのこゝろからころ落花生

11/2  落日のさらに燃立つ楓かな

11/3  パレットにしぼる鈍色冬隣

11/4  絵馬堂の銀杏落ちる音しきり

11/5  古戦場跡のしじまや山装ふ

11/6  ゆく秋の籾を焼く香に咽びけり

11/7  立冬や舞へばかがやく薄ほこり

11/8  谿越えて木を伐る音や冬兆す

11/9  誰知らぬ風の通ひ路木の葉舞ふ

11/10 仄昏き阿弥陀堂裏冬の虫

11/11 山茶花やこぼれたる灯に白濁す

11/12 夜々風の荒ぶることよ神の旅

11/13 冬めくや籬に猫のねまるさへ

11/14 淋しらのふかき奥底うさぎの目

11/15 日矢射せる宮のきざはし七五三

11/16 鮟鱇の醜を徹頭徹尾喰らふ

11/17 蒼穹の奈落おそろし冬紅葉

11/18 月光の卓に焼藷置かれあり

11/19 四阿のこゑのふくらむ小春かな

11/20 山湖はや日暮れて鴨の群抱く

11/21 葱洗ふ水音(みおと)や鄙の朝まだき

11/22 小雪やまたたき点る非常灯

11/23 沈みゆく日の朱よ木守柿の朱よ

11/24 雨の気にしづもる夜や滑子汁

11/25 独り寝の蒲団や夢のすぐ消ゆる

11/26 船乗りの陸(くが)に酔ひたるおでん酒

11/27 熱燗の湯気や海馬のおぼつかず

11/28 薄墨の葉書とどきぬ石蕗の花

11/29 なにごともなきかにそこに竈猫

11/30 うるはしき午や南天の赫赫(かっかく)と



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十月の句綴り

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10/1  灯をこぼすまどのちらほら夜長人

10/2  来し方の委細語らず唐辛子

10/3  溢蚊の耳朶のほとりをなほ鳴けり

10/4  笊の切る水きららかや貝割菜

10/5  喪の家の金木犀のいよ匂ふ

10/6  一編の詩を得て灯下親しめり

10/7  弘法の市に異なもの秋高し

10/8  鉄瓶のちりちり哭ける寒露の夜

10/9  児は雲をアンパンマンと秋渇(あきがわき)

10/10 曳船の汽罐全開秋思尚

10/11 豊饒の郷や月下に新酒酌む

10/12 信心のふかき島人石榴裂く

10/13 敗荷やひたひたと夜の濁りゆく

10/14 稲刈るや棚田の空を手繰りつつ

10/15 親のなき子の吹き鳴らす瓢の笛

10/16 茸狩や四方の葉擦れの音聞きつ

10/17 重陽や天意は道をあやまたず

10/18 団栗や叫べば木霊かへす森

10/19 ボンネットバスは岬へ青蜜柑

10/20 真白なる傀儡の首(こうべ)そぞろ寒

10/21 虫の音を日交ぜとなせり後の月

10/22 秋草や夕べに黄金なすことを

10/23 霜降や微塵のごとく日々過ぎゆく

10/24 杣道の日暮迅かり熊の架

10/25 夜の淵へ紫式部実を垂らす

10/26 秋刀魚秋刀魚けぶりに涙する妻よ

10/27 藤の実やはるかとなりし夢一夜

10/28 父母のなきなぞへの畑や走り蕎麦

10/29 人それぞれ一つの影を暮の秋

10/30 倒れ臥す残菊のあり屈み見る

10/31 生き死にの地上天辺鳥渡る





九月の句綴り

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9/1  二百十日沖ゆく船を雲が追ふ

9/2  つなぐ手を染むる入日や赤のまま

9/3  星降れる里や案山子の影ひとつ

9/4  桐一葉影の大いにひるがへる

9/5  喪の家のくらき門灯蚯蚓鳴く

9/6  影をひく子連れ遍路や夕花野

9/7  勝名乗りうけるは海女や村相撲

9/8  落柿舎の蓑笠ぬるる白露かな

9/9  ひな鳥のかぼそきこゑや野分痕

9/10 里住のたつきゆたかや竹の春

9/11 蟋蟀に餌となる末期爬虫館

9/12 秋色(しゅうしょく)のさだかに山湖くれなづむ

9/13 後朝の風のかよひ路野菊濃し

9/14 秋の田の金鈴をふる風の道

9/15 逃散を記する村史や黍嵐

9/16 弦月や海のしじまを渡りゆく

9/17 敬老の日とや苦爪のよく伸びて

9/18 追憶の欠片をさがす秋の潮

9/19 秋鯖や夜の潮をしたたかに

9/20 コスモスの一輪なれば愛すべし

9/21 蛇穴に入りて雨天の一日なり

9/22 一群の曼珠沙華一輪の死人花

9/23 秋彼岸吾のひく影の濃くありぬ

9/24 階(きざはし)の肌(はだえ)つややか今日の月

9/25 バーナーの火の青々と朝の冷え

9/26 北國の釣瓶落しや帰路一途

9/27 海峡の昏きへ帰燕消えゆけり

9/28 古書店のほまちあきなひ秋曇

9/29 紫蘇の実や僧の夕餉のつつましく

9/30 たらたらと入日喰らふや鶏頭花



八月の句綴り

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8/1  子を見遣る遠まなざしや砂日傘

8/2  夏菊を供花とす苔の無縁墓

8/3  父が手の笊は飴色梅を干す

8/4  蚊の聲のひとたび過ぎてそれつきり

8/5  打水の終の柄杓を一鉢へ

8/6  主を讃ふ聲のどこより原爆忌

8/7  立秋やブッセの詩片諳んずる

8/8  荒縄を十字に西瓜提げきたり

8/9  暮れてなほ別烏の声しきり

8/10 二人とはかくもさびしや鳳仙花

8/11 愚直なる天の配剤星流る

8/12 借景は大海原や糸瓜垂る

8/13 新涼や佛足石の沙羅の影

8/14 段畑をかくす煙雨や新生姜

8/15 うち水のすぐにかわくや敗戦日

8/16 流灯の點となるまで佇めり

8/17 三叉路の行方あやふき残暑かな

8/18 朝顔や夜勤明けなる手に油

8/19 身構へて何に怒りをいぼむしり

8/20 一湾の光のうねり鰯群来

8/21 発掘のごとく自然薯あらはにす

8/22 しらしらと闇のはざまを踊の手

8/23 川上に木を伐る音や処暑の郷

8/24 考妣(ちちはは)に詫びる不義理や盆の月

8/25 底紅の底方(そこい)へ蟻のなだれ落つ

8/26 疾く暮るる山や鬼子をいよ泣かす

8/27 濡縁に老いたる父や月見豆

8/28 海峡の彼方ざざめく秋の雷

8/29 つくつくしつくづく峡の空狭し

8/30 ありの実のありとて子なき妻あはれ

8/31 秋扇やこゝろの隙を閉ぢしまゝ

七月の句綴り

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7/1  法螺の音をかへす谺や開山祭

7/2  噴水の切つ先宙に触れたがる

7/3  夕映えのせかす化粧(けわい)や女郎蜘蛛

7/4  少年は実らぬ果実南風吹く

7/5  笛の音はまつり稽古か水羊羹

7/6  ほのかなる水のにほひをかたつむり

7/7  天に意のあるがごとくに蓮ひらく

7/8  夏痩や女医の鎖骨の麗しく

7/9  斯くかろき網戸のへだてたる魔闇

7/10 百日紅無聊の空を明るくす

7/11 東雲(しののめ)の海はうす墨虎が雨

7/12 一身といへるはかなさ糸蜻蛉

7/13 小賢しき知恵の疑似餌を蛸が抱く

7/14 余韻なほのこるシネマや巴里祭

7/15 青柿や後継者なき木地の里

7/16 夜(よる)は夜(よ)の貌をもちたる金魚かな

7/17 しらしらと空蝉の苦をとき放つ

7/18 緑蔭に神事の牛のしづかなる

7/19 愁ひ濃きピエロや汗をかきもせで

7/20 葦垣の入日に焼くる土用かな

7/21 難波津の都跡とや草いきれ

7/22 聖堂の日向に蜥蜴つるみをり

7/23 枕木の鉄錆にほふ大暑かな

7/24 ふたたびの闇おそろしや遠花火

7/25 日盛やことりと影の立ち上がる

7/26 同行二人振舞水にむせびをり

7/27 川風の音なく入るや夏暖簾

7/28 囚はれの天牛(かみきり)夜をぎぎと哭く

7/29 ずぶ濡れの子等のスキップ喜雨到る

7/30 すぐ覚むる夢を微塵に朝焼す

7/31 風死せる大路や聲のひとつだに


六月の句綴り

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6/1  巻きもどす胎の記憶や文字摺草

6/2  木から樹へつらなるこゑや四十雀

6/3  麦笛や切傷絶えぬ少年期

6/4  ひとひらの泰山木のいよ匂ふ

6/5  閉ざされし鉄扉に翳を花茨

6/6  ガリ版のインク匂へる芒種かな

6/7  幸うすき皇子の墳墓や蜻蛉生る

6/8  若竹の艶ますよべの雨しづく

6/9  ささらなる音のみちびき岩清水

6/10 時の日のゆびをり数を唄ふ子よ

6/11 うつろへる心かくさず七変化

6/12 捨舟の艫の沈める梅雨入かな

6/13 朽ち果てし宮に聴く風蟻地獄

6/14 短夜や雑魚寝の宿のさざめごと

6/15 夏衾夜のしんかんとかさなり来

6/16 相聞の大和三山薬降る
     *薬降る=陰暦五月五日の正午頃に降る雨

6/17 水草の鯰ゆらりと翳を消す

6/18 月光に己さらして髪洗ふ

6/19 どくだみや浦の廃家の錆びを濃く

6/20 五月雨の空へガラスのエレベーター

6/21 海楼にとどく潮騒夏至夕べ

6/22 少年は実らぬ果実南風吹く

6/23 海はただ碧く黙して沖縄忌

6/24 尺蠖の思案に暮るるさま見たり

6/25 速雨(はやさめ)のたたける蓮の浮葉かな

6/26 亡き母の部屋の姿見黴にほふ

6/27 つかの間の地のあかるさや梅雨の月

6/28 手をのべていざなふ女人杜若

6/29 対岸の灯を息つめて梅雨出水

6/30 孑孑や夜半の死水を生き生きと



五月の句綴り

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5/1  魚島や明けまちやらぬ釣の宿

5/2  躑蠋躑蠋躑蠋躑蠋の自己主張

5/3  うら若き妊婦しづしづ春日傘

5/4  異なもののひよいと出でたる潮干狩

5/5  大いなる幟はためく立夏かな

5/6  たかんなの確と大地をつかみをり

5/7  廃村の荒れ凄まじや桐の花

5/8  幼子の水を蹴るこゑ聖五月

5/9  街中は音の坩堝や夕薄暑

5/10 吾(わ)も汝(なれ)も命ひとつや愛鳥日

5/11 沈み根か卯波のふいと立ち上がる

5/12 小夜ふけて守宮の呼気をまなうらに

5/13 夏場所や風にかすかな潮(うしお)の香

5/14 北空を背に夏鴨の立ち上がる

5/15 浮雲の影すぐそこに花うつぎ

5/16 心太八百屋お七の情を解く

5/17 海へ向く籐椅子に背をゆだねたり

5/18 香水のかすかや真夜の昇降機

5/19 アカシアの花や無常の風しきり

5/20 蓴菜(じゅんさい)を摘めり水音を奏でつつ

5/21 小満や稚児(ややこ)は眠りつつ笑ふ

5/22 ざりざりと打ち合ふ風や麦の秋

5/23 ふるさとや母の新茶の芳しく

5/24 山峡の沈く(しずく)卯の花腐しかな

5/25 妻留守の夕べひたひた冷奴

5/26 鈴蘭の何ささやくや夜の卓

5/27 カプセルの薬水色むかへ梅雨

5/28 落人の塚や茂りのとめどなく

5/29 水明の木々の香を濃く夏めけり

5/30 雨音の夜はさびしや泥鰌鍋

5/31 長針のきざむ一秒五月尽



四月の句綴り





4/1  だまし絵の水に輪廻や四月馬鹿

4/2  帆船の舳先はナイフ春の波

4/3  吾もまた野の陽炎よ歩みゆく

4/4  青麦やふるさと捨てし日の記憶

4/5  清明の水音(みおと)や人を呼ぶごとく

4/6  菜の花を咲くだけ咲かせ村さびし

4/7  初虹のあえかなること哀しまず

4/8  金色(こんじき)の鯉の気息や仏生会

4/9  逃水や先をゆく子のもう見えず

4/10 飛石の綾に遅日を分かち合ふ

4/11 蒲公英やサイロはながき影ひきて

4/12 まなぶたをとぢればしきり飛花落花

4/13 春雨の音なく夕をぬらしをり

4/14 潮騒や目刺の藁をぬく一瞬

4/15 いにしへに都ありしと竹の秋

4/16 五男二女産みたる母や葱坊主

4/17 鯉の尾のゆらりと春の風邪心地

4/18 京嵯峨野茶屋緋毛氈目借時

4/19 分校の生徒は五人山笑ふ

4/20 さはさはとざわと穀雨のこゑすなり

4/21 なんじやもんじやあいまいもこのもこもこと

4/22 結目を解くは別れや蝌蚪の紐

4/23 山葵田の清冽なりし水音(みおと)かな

4/24 ライオンの聲へ遠足かけゆけり

4/25 縣谷の空せまからん百千鳥

4/26 茶摘機の刃(やいば)や夜も香を放つ

4/27 泣きぬれて雀隠れの野にねまる

4/28 桜貝拾はむと女の濡れゐたる

4/29 坂上に手をふる妹(いも)や朧月

4/30 唐門の龍虎花鳥や緑立つ

三月の句綴り

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3/1  茹で上がるちりめんじやこの目の無数

3/2  双蝶の追ひ追はるるや狂ほしく

3/3  夕暮れて薄紅梅の際立てり

3/4  ゆらめきを海女に映すや磯焚火

3/5  白亜紀は近しきむかし山火燃ゆ

3/6  啓蟄の天地なにやら慌ただし

3/7  名も知らぬ一木なれど芽立けり

3/8  ユートピアあれかしあまた蜷の道

3/9  織田作の闊歩せし街マント脱ぐ

3/10 隠湯の階を暖雨に濡れゆけり

3/11 国引きの波にたゆたふ蜆舟

3/12 挿木せし若枝のその後問はれけり

3/13 春鮒釣合せの手首はやりたる

3/14 彫像の乳房ゆたかや木の芽風

3/15 母ひとり朧月夜に佇めり

3/16 卒業証書逝きたる友の墓に見す

3/17 春疾風少年なにに礫投ぐ

3/18 人知れず咲ける野草や春三日月

3/19 狂乱の鵯の散らすや花辛夷

3/20 衆目を射抜く入日や彼岸寺

3/21 春分の牛舎にトルコ行進曲

3/22 龍天に山岳襞をあらはにす

3/23 蛇穴を出でて楽土のざざめける

3/24 喪の家の夜をことさらに沈丁花

3/25 分校は子等のあそび場春休

3/26 風車とまれば背ナの子の泣けり

3/27 佐保姫の御機嫌斜めなる日なり

3/28 初蝶のふれしより野のかがやける

3/29 引鶴のつくづく空をうつくしく

3/30 雁風呂や潮騒は誰が子守唄

3/31 来し方をふりさけみたり涅槃雪

二月の句綴り

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2/1  三寒四温海光に目をほそめけり

2/2  寒紅の美しき言の葉放ちけり

2/3  夜をつめて火を焚く神事冬惜しむ

2/4  立春の水ゆたかなる河馬の池

2/5  野仏をしかと春日のいだきをり

2/6  斑雪嶺や父おもむろに鉈を砥ぐ

2/7  入相の潮の香を濃く白魚(しらお)汲む

2/8  たをやかなをみなの五指や針供養

2/9  雪垢(ゆきあか)や札所へ二里の道しるべ

2/10 ハミングの春セーターとゆき違ふ

2/11 巣籠りの鷺や眼の一途なる

2/12 麦を踏む農婦ひたすら首を垂れ

2/13 わたつみを蹴散らし空へ春の鳶

2/14 ささら波ぬうて針魚(はりお)の群來たり

2/15 春聯(しゅんれん)の福の一字のまどかなる

2/16 焼畑の残火を踏みて日暮れけり

2/17 堅香子の花と見知らぬ人の云ふ

2/18 羽づくろふ鴨の羽音や春心地

2/19 水飴の喉すべり落つ雨水かな

2/20 奥底に母の一語や雪椿

2/21 鬼浅蜊鳴けり真夜なる桶の中

2/22 高原の霧をそびらや耕耘機

2/23 闇深む藪へ雉子(きぎす)の尾の消ゆる

2/24 芹摘めるこゑや川瀬の音の中

2/25 里宮の謂れ哀しや梅月夜

2/26 夜もすがら鳴くを厭はず浮かれ猫

2/27 手応への鎌の一閃和布刈舟

2/28 廻廊をすべる砂塵や春寒し

一月の句綴り

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1/1  八重垣をなせる稜線初明り

1/2  巫女のふる鈴音の空へ年新た

1/3  山水の去年より流れ来し音か

1/4  喪の人の賀状なきこと哀しめり

1/5  小寒や雪野に影のひとつだに

1/6  武蔵野の雲とおよぐや梯子乗

1/7  よく笑ふ子の紅顔や七日粥

1/8  母ひとり子ひとり成人式の夜よ

1/9  日に映ゆる少女の和毛春小袖

1/10 街道の此処より峠鐘氷る

1/11 オリオンの真下かそけし海人(あま)の里

1/12 天地(あめつち)の意をごちやまぜに吹雪くなり

1/13 初凧や兄おとうとの夢異に

1/14 鬢付の香のはれやかに初相撲

1/15 どんど焼き終へて数多の星見上ぐ

1/16 村重の謀叛の城下寒造

1/17 牡蠣船をゆらすは誰の影ならむ

1/18 炭焼の掌をねんごろに洗ひをり

1/19 一村を統べるしじまや雪あかり

1/20 大寒や峡の一戸に燈のともる

1/21 寒三日月よる辺なき虚をただよへり

1/22 鰭酒やをみなの嘘をうけながす

1/23 鷲掴むボールを空へラガー吼ゆ

1/24 犬鷲の神の眼光もて孤独

1/25 撫牛の頭のひんやりと初天神

1/26 春永くあれかし天にひかり満つ

1/27 万歳のあとを列なす里の子よ

1/28 負けまじときりきり捲くや独楽の紐

1/29 初旅のまづは深雪を踏む試練

1/30 道行にふと惹かれたる二の替

1/31 凭れゐしチャペルの壁の冷たかり




師走の句綴り

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12/1  水神の統べるあふみや北颪

12/2  手弱女の息もて熾す備長炭

12/3  ほとばしる水にうたすや赤かぶら

12/4  河豚鍋や賭して今世(こんぜ)を生ききたり

12/5  人の世の四角を丸く炬燵猫

12/6  明日香野に青女(せいにょ)の舞へる朝かな
       *青女=霜

12/7  大雪(たいせつ)や旧街道の寂ふかく

12/8  指切りて約すあしたや冬落暉

12/9  父の座の褞袍の父ぞ懐かしき

12/10 鶏捌く血の一筋や冬の川

12/11 鷹狩の四つのまなこを一点へ

12/12 カオナシの貌のぞろぞろ年忘

12/13 牛鍋や昭和も遠き日となれり

12/14 繋ぎたる子の手をかくす冬着かな

12/15 風冴ゆる一日や山の影重く

12/16 鶏頭の枯れて情火を失へり

12/17 帰路を急く猫背の影や街路凍む

12/18 冬帝(とうてい)や定めあるごと雲流る

12/19 煤払ひ終へて入日に合掌す

12/20 鴟尾にびく光る古刹や師走市

12/21 膝折りて冬の泉へくちづけす

12/22 末の子も冬至南瓜を持ちたがる

12/23 紙漉女万の祈りのあるごとく

12/24 虚ろなる街のネオンや慈善鍋

12/25 杣の戸のふかき庇や年木積む

12/26 煤けたる故家の大梁紅葉鍋

12/27 餅搗の杵とこねる手反発す

12/28 燈のにじむ島の波止場や夜鷹蕎麦

12/29 宿の灯のぬらす小庭や蕪鮨

12/30 中天にあはき昼月年送る

12/31 雪に消ゆ一打一打や除夜の鐘



霜月の句綴り

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11/1  玉章の枯びし蔓をひけば揺れ

      *玉章(たまずさ)=烏瓜

11/2  草の香の失せし路辺や露時雨

11/3  掌にかすか油のにほひ夜学生

11/4  大淀に舫ふ木舟や秋気澄む

11/5  やみくもに叩く小啄木鳥や木から木へ

11/6  山影の落ちし過疎の田紫雲英撒く

11/7  バーナーの火の蒼々と冬立てり

11/8  冬麗の海たひらかや鳶の笛

11/9  掻巻や山処(やまが)に風の泣ける夜

11/10 冬日いま水面に綺羅をつくしけり

11/11 裏山に狐狸妖怪の狸ぞ棲めり

11/12 打ち寄する芥あまたや冬の浜

11/13 味噌搗のことこまごまと母の文

11/14 枯枝の高みを風の渦なせり

11/15 鱈ちりや浦の女のたくましく

11/16 霊山の一切無言滝涸るる

11/17 駅裏の路地にネオンや初時雨

11/18 小さき灯に手荒れの母の繕へる

11/19 四方(よも)はみな山のふるさと大根汁

11/20 一撃は日の射す沖へ鰤起し

11/21 天翔る夢を見むとや羽根布団

11/22 しんしんと冷ゆる手足や達磨の忌

11/23 ただ雨を聴くや勤労感謝の日

11/24 人類の進化不可思議焚火跡

11/25 愚直なる父の晩年頬被

11/26 樏(かんじき)のまたぎ孤高の眼をもてり

11/27 酢海鼠や島の一夜の雪明かり

11/28 ぎこちなき藪鶯のつと翔り

11/29 角巻のくの字に風を分け行けり

11/30 マーラーを聴くともなしに風邪心地



神無月の句綴り

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10/1  秋麗や雅楽の舞のしづやかに

10/2  実柘榴や殉教の碑の日にぬれて

10/3  漣は湖の言の葉律(りち)の風

10/4  人の世の一夜短し望の月

10/5  肩車せがむ子のゐる良夜かな

10/6  錆鮎や故山の風の荒れそむる

10/7  長き夜や光源氏のいつ眠る

10/8  竹林の風音しるき寒露かな

10/9  亡き母の箱膳いまも麦とろろ

10/10 蛇穴に入るを見つむる女かな

10/11 妹(いも)が名をつけし子牛や牧帰り

10/12 山嶺のかすかや二十三夜月

10/13 色鳥や己かなしむ少年期

10/14 雨去りて芋畑のいよかがやけり

10/15 あの影の一つは吾や雁渡る

10/16 蜜舐めてなまめく秋の胡蝶かな

10/17 老いの身の日々のつれづれ牛蒡掘る

10/18 末の子が持つをせがむや囮籠

10/19 影踏みのあの子はどこへ星月夜

10/20 吾を追ふ吾の靴音炉火恋し

10/21 同行二人枯野の色に立ち止まる

10/22 稚児(やや)の泣くこゑのどこより夜半の秋

10/23 霜降の野にマネキンの捨ててあり

10/24 子の去りし砂場に小山秋の暮

10/25 山水を恃むたつきや新豆腐

10/26 海峡は昏く霧笛の尾はながく

10/27 松茸や父祖の遺せし山太る

10/28 高鳴くは歓喜の歌か田鶴渡る

10/29 空にまだ麒麟の首よ秋の暮

10/30 秋小寒日暮ひた寄す奥嵯峨野

10/31 誰知らぬ永遠の天界仏掌薯仏

長月の句綴り

20170930.jpg




9/1   手刀の所作うつくしや勝相撲

9/2   風のなき夕の一路や一葉落つ

9/3   郷老いて鵙の高音のいくたびも

9/4   声かけてゆくは旅人鯊の秋

9/5   身の上に耳かす炉辺秋の宿

9/6   葬の夜の真なる闇やちちろ虫

9/7   しらしらと夜気の消えゆく白露かな

9/8   爽涼や海見るための椅子ふたつ

9/9   芒野におぼるる狐狸のありなんと

9/10  古釘に錆ある蚊帳の別れかな

9/11  死せるものの形に群れて秋の蟻

9/12  小牡鹿(さおしか)のこゑや月なき三笠山

9/13  かかる夜の意を惑はすや銀木犀

9/14  落柿舎の戸口に蓑や秋の声

9/15  豊穣の風を四辺へ稲扱機

9/16  まほろばの朱の橋見ゆる秋の湖

9/17  目の濡れし秋の金魚とふたりぼち

9/18  白鳥座つばさ休めし夜のあらん

9/19  蝿点と化し桜紅葉の陽を舐むる

9/20  源平の合戦跡や虫すだく

9/21  三界の罪負ふごとく罌粟を蒔く

9/22  湯あがりの白きはだへや初月夜

9/23  秋分の入日ことさら赤々と

9/24  夕星(ゆうづつ)の息吹く汽水を鰡とべり

9/25  滂沱たる夜露の聲や草泊り

9/26  出来秋の天一点のにごりなく

9/27  水尾をひく青き一艇山湖冷ゆ

9/28  明けやらぬ厨に母や竈馬

9/29  廃校となりし分校懸巣鳴く

9/30  人逝きてかりがね寒し夜のしじま








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