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三月の句綴り

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3/1  茹で上がるちりめんじやこの目の無数

3/2  双蝶の追ひ追はるるや狂ほしく

3/3  夕暮れて薄紅梅の際立てり

3/4  ゆらめきを海女に映すや磯焚火

3/5  白亜紀は近しきむかし山火燃ゆ

3/6  啓蟄の天地なにやら慌ただし

3/7  名も知らぬ一木なれど芽立けり

3/8  ユートピアあれかしあまた蜷の道

3/9  織田作の闊歩せし街マント脱ぐ

3/10 隠湯の階を暖雨に濡れゆけり

3/11 国引きの波にたゆたふ蜆舟

3/12 挿木せし若枝のその後問はれけり

3/13 春鮒釣合せの手首はやりたる

3/14 彫像の乳房ゆたかや木の芽風

3/15 母ひとり朧月夜に佇めり

3/16 卒業証書逝きたる友の墓に見す

3/17 春疾風少年なにに礫投ぐ

3/18 人知れず咲ける野草や春三日月

3/19 狂乱の鵯の散らすや花辛夷

3/20 衆目を射抜く入日や彼岸寺

3/21 春分の牛舎にトルコ行進曲

3/22 龍天に山岳襞をあらはにす

3/23 蛇穴を出でて楽土のざざめける

3/24 喪の家の夜をことさらに沈丁花

3/25 分校は子等のあそび場春休

3/26 風車とまれば背ナの子の泣けり

3/27 佐保姫の御機嫌斜めなる日なり

3/28 初蝶のふれしより野のかがやける

3/29 引鶴のつくづく空をうつくしく

3/30 雁風呂や潮騒は誰が子守唄

3/31 来し方をふりさけみたり涅槃雪

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二月の句綴り

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2/1  三寒四温海光に目をほそめけり

2/2  寒紅の美しき言の葉放ちけり

2/3  夜をつめて火を焚く神事冬惜しむ

2/4  立春の水ゆたかなる河馬の池

2/5  野仏をしかと春日のいだきをり

2/6  斑雪嶺や父おもむろに鉈を砥ぐ

2/7  入相の潮の香を濃く白魚(しらお)汲む

2/8  たをやかなをみなの五指や針供養

2/9  雪垢(ゆきあか)や札所へ二里の道しるべ

2/10 ハミングの春セーターとゆき違ふ

2/11 巣籠りの鷺や眼の一途なる

2/12 麦を踏む農婦ひたすら首を垂れ

2/13 わたつみを蹴散らし空へ春の鳶

2/14 ささら波ぬうて針魚(はりお)の群來たり

2/15 春聯(しゅんれん)の福の一字のまどかなる

2/16 焼畑の残火を踏みて日暮れけり

2/17 堅香子の花と見知らぬ人の云ふ

2/18 羽づくろふ鴨の羽音や春心地

2/19 水飴の喉すべり落つ雨水かな

2/20 奥底に母の一語や雪椿

2/21 鬼浅蜊鳴けり真夜なる桶の中

2/22 高原の霧をそびらや耕耘機

2/23 闇深む藪へ雉子(きぎす)の尾の消ゆる

2/24 芹摘めるこゑや川瀬の音の中

2/25 里宮の謂れ哀しや梅月夜

2/26 夜もすがら鳴くを厭はず浮かれ猫

2/27 手応への鎌の一閃和布刈舟

2/28 廻廊をすべる砂塵や春寒し

一月の句綴り

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1/1  八重垣をなせる稜線初明り

1/2  巫女のふる鈴音の空へ年新た

1/3  山水の去年より流れ来し音か

1/4  喪の人の賀状なきこと哀しめり

1/5  小寒や雪野に影のひとつだに

1/6  武蔵野の雲とおよぐや梯子乗

1/7  よく笑ふ子の紅顔や七日粥

1/8  母ひとり子ひとり成人式の夜よ

1/9  日に映ゆる少女の和毛春小袖

1/10 街道の此処より峠鐘氷る

1/11 オリオンの真下かそけし海人(あま)の里

1/12 天地(あめつち)の意をごちやまぜに吹雪くなり

1/13 初凧や兄おとうとの夢異に

1/14 鬢付の香のはれやかに初相撲

1/15 どんど焼き終へて数多の星見上ぐ

1/16 村重の謀叛の城下寒造

1/17 牡蠣船をゆらすは誰の影ならむ

1/18 炭焼の掌をねんごろに洗ひをり

1/19 一村を統べるしじまや雪あかり

1/20 大寒や峡の一戸に燈のともる

1/21 寒三日月よる辺なき虚をただよへり

1/22 鰭酒やをみなの嘘をうけながす

1/23 鷲掴むボールを空へラガー吼ゆ

1/24 犬鷲の神の眼光もて孤独

1/25 撫牛の頭のひんやりと初天神

1/26 春永くあれかし天にひかり満つ

1/27 万歳のあとを列なす里の子よ

1/28 負けまじときりきり捲くや独楽の紐

1/29 初旅のまづは深雪を踏む試練

1/30 道行にふと惹かれたる二の替

1/31 凭れゐしチャペルの壁の冷たかり




師走の句綴り

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12/1  水神の統べるあふみや北颪

12/2  手弱女の息もて熾す備長炭

12/3  ほとばしる水にうたすや赤かぶら

12/4  河豚鍋や賭して今世(こんぜ)を生ききたり

12/5  人の世の四角を丸く炬燵猫

12/6  明日香野に青女(せいにょ)の舞へる朝かな
       *青女=霜

12/7  大雪(たいせつ)や旧街道の寂ふかく

12/8  指切りて約すあしたや冬落暉

12/9  父の座の褞袍の父ぞ懐かしき

12/10 鶏捌く血の一筋や冬の川

12/11 鷹狩の四つのまなこを一点へ

12/12 カオナシの貌のぞろぞろ年忘

12/13 牛鍋や昭和も遠き日となれり

12/14 繋ぎたる子の手をかくす冬着かな

12/15 風冴ゆる一日や山の影重く

12/16 鶏頭の枯れて情火を失へり

12/17 帰路を急く猫背の影や街路凍む

12/18 冬帝(とうてい)や定めあるごと雲流る

12/19 煤払ひ終へて入日に合掌す

12/20 鴟尾にびく光る古刹や師走市

12/21 膝折りて冬の泉へくちづけす

12/22 末の子も冬至南瓜を持ちたがる

12/23 紙漉女万の祈りのあるごとく

12/24 虚ろなる街のネオンや慈善鍋

12/25 杣の戸のふかき庇や年木積む

12/26 煤けたる故家の大梁紅葉鍋

12/27 餅搗の杵とこねる手反発す

12/28 燈のにじむ島の波止場や夜鷹蕎麦

12/29 宿の灯のぬらす小庭や蕪鮨

12/30 中天にあはき昼月年送る

12/31 雪に消ゆ一打一打や除夜の鐘



霜月の句綴り

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11/1  玉章の枯びし蔓をひけば揺れ

      *玉章(たまずさ)=烏瓜

11/2  草の香の失せし路辺や露時雨

11/3  掌にかすか油のにほひ夜学生

11/4  大淀に舫ふ木舟や秋気澄む

11/5  やみくもに叩く小啄木鳥や木から木へ

11/6  山影の落ちし過疎の田紫雲英撒く

11/7  バーナーの火の蒼々と冬立てり

11/8  冬麗の海たひらかや鳶の笛

11/9  掻巻や山処(やまが)に風の泣ける夜

11/10 冬日いま水面に綺羅をつくしけり

11/11 裏山に狐狸妖怪の狸ぞ棲めり

11/12 打ち寄する芥あまたや冬の浜

11/13 味噌搗のことこまごまと母の文

11/14 枯枝の高みを風の渦なせり

11/15 鱈ちりや浦の女のたくましく

11/16 霊山の一切無言滝涸るる

11/17 駅裏の路地にネオンや初時雨

11/18 小さき灯に手荒れの母の繕へる

11/19 四方(よも)はみな山のふるさと大根汁

11/20 一撃は日の射す沖へ鰤起し

11/21 天翔る夢を見むとや羽根布団

11/22 しんしんと冷ゆる手足や達磨の忌

11/23 ただ雨を聴くや勤労感謝の日

11/24 人類の進化不可思議焚火跡

11/25 愚直なる父の晩年頬被

11/26 樏(かんじき)のまたぎ孤高の眼をもてり

11/27 酢海鼠や島の一夜の雪明かり

11/28 ぎこちなき藪鶯のつと翔り

11/29 角巻のくの字に風を分け行けり

11/30 マーラーを聴くともなしに風邪心地



神無月の句綴り

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10/1  秋麗や雅楽の舞のしづやかに

10/2  実柘榴や殉教の碑の日にぬれて

10/3  漣は湖の言の葉律(りち)の風

10/4  人の世の一夜短し望の月

10/5  肩車せがむ子のゐる良夜かな

10/6  錆鮎や故山の風の荒れそむる

10/7  長き夜や光源氏のいつ眠る

10/8  竹林の風音しるき寒露かな

10/9  亡き母の箱膳いまも麦とろろ

10/10 蛇穴に入るを見つむる女かな

10/11 妹(いも)が名をつけし子牛や牧帰り

10/12 山嶺のかすかや二十三夜月

10/13 色鳥や己かなしむ少年期

10/14 雨去りて芋畑のいよかがやけり

10/15 あの影の一つは吾や雁渡る

10/16 蜜舐めてなまめく秋の胡蝶かな

10/17 老いの身の日々のつれづれ牛蒡掘る

10/18 末の子が持つをせがむや囮籠

10/19 影踏みのあの子はどこへ星月夜

10/20 吾を追ふ吾の靴音炉火恋し

10/21 同行二人枯野の色に立ち止まる

10/22 稚児(やや)の泣くこゑのどこより夜半の秋

10/23 霜降の野にマネキンの捨ててあり

10/24 子の去りし砂場に小山秋の暮

10/25 山水を恃むたつきや新豆腐

10/26 海峡は昏く霧笛の尾はながく

10/27 松茸や父祖の遺せし山太る

10/28 高鳴くは歓喜の歌か田鶴渡る

10/29 空にまだ麒麟の首よ秋の暮

10/30 秋小寒日暮ひた寄す奥嵯峨野

10/31 誰知らぬ永遠の天界仏掌薯仏

長月の句綴り

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9/1   手刀の所作うつくしや勝相撲

9/2   風のなき夕の一路や一葉落つ

9/3   郷老いて鵙の高音のいくたびも

9/4   声かけてゆくは旅人鯊の秋

9/5   身の上に耳かす炉辺秋の宿

9/6   葬の夜の真なる闇やちちろ虫

9/7   しらしらと夜気の消えゆく白露かな

9/8   爽涼や海見るための椅子ふたつ

9/9   芒野におぼるる狐狸のありなんと

9/10  古釘に錆ある蚊帳の別れかな

9/11  死せるものの形に群れて秋の蟻

9/12  小牡鹿(さおしか)のこゑや月なき三笠山

9/13  かかる夜の意を惑はすや銀木犀

9/14  落柿舎の戸口に蓑や秋の声

9/15  豊穣の風を四辺へ稲扱機

9/16  まほろばの朱の橋見ゆる秋の湖

9/17  目の濡れし秋の金魚とふたりぼち

9/18  白鳥座つばさ休めし夜のあらん

9/19  蝿点と化し桜紅葉の陽を舐むる

9/20  源平の合戦跡や虫すだく

9/21  三界の罪負ふごとく罌粟を蒔く

9/22  湯あがりの白きはだへや初月夜

9/23  秋分の入日ことさら赤々と

9/24  夕星(ゆうづつ)の息吹く汽水を鰡とべり

9/25  滂沱たる夜露の聲や草泊り

9/26  出来秋の天一点のにごりなく

9/27  水尾をひく青き一艇山湖冷ゆ

9/28  明けやらぬ厨に母や竈馬

9/29  廃校となりし分校懸巣鳴く

9/30  人逝きてかりがね寒し夜のしじま








葉月の句綴り

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8/1   両の手を岨の肌(はだえ)へ岩清水

8/2   子等の手が冷し西瓜へ突撃す

8/3   神泉(じんせん)の風をいだくや薄衣

8/4   樹にもたれをれば樹のこゑ晩夏光

8/5   夕凪の浦や小舟のすべり出づ

8/6   捨舟の底に垢水夏果つる

8/7   身ほとりになじむあれこれ秋立てり

8/8   雨余いよよ湧くがごとくにあきつ舞ふ

8/9   六日九日踏まれし草の立ち上がる

8/10  葬送の鉦をそびらや稲の花

8/11  人知れず瓢の尻の肥りゆく

8/12  けらつつき(啄木鳥)森の扉をひた叩く

8/13  盆唄やともに輪をなす死者生者

8/14  火のごとく舞ふ八月のフラミンゴ

8/15  夜気はらむ峡の一戸や魂迎

8/16  流灯の寄辺あるごとゆらめける

8/17  人気なき里の隘路や遠案山子

8/18  せり上がる潮もろとも鰯船

8/19  稲妻や定かに見ゆる死者の列

8/20  人逝きし夜や芋の葉のざわめける

8/21  送行(そうあん)や湖にさだかな風の道

8/22  落柿舎の風音かろき文月かな

8/23  手に触れしものいとほしや処暑の朝

8/24  地蔵盆つひぞ見知らぬ子がひとり

8/25  秋晴のあつけらかんと杣が里

8/26  雄鶏の爪に血の痕秋旱

8/27  月下美人食うたと女嗤ひけり

8/28  天心や願の糸をかたくかたく

8/29  空ちかきなぞへの里や威銃

8/30  花木槿人は底意をひた隠す

8/31  めはじきや童女(こ)は穢れなき瞳もつ




文月の句綴り

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7/1   夜盗虫無辺世界の闇を食む

7/2   しらしらと白き船ゆく白夜かな

7/3   夏の日の水車ざんぶと濡れてをり

7/4   乳房(ちちふさ)の晒布きりりと神輿舁く

7/5   知恵の輪の知恵からからと青葉木菟

7/6   嫋やかに大海わけて海鷂魚の鰭

7/7   御仏の涼しく薄目したまへり

7/8   避難所にすすり泣く子や水禍の夜

7/9   掛香やセピア色なる妓の写真

7/10  古文書の頁を風が昼寝人

7/11  露地ぬける島の夕風竹床几

7/12  忙しなき揚羽よ墓域昏き日よ

7/13  干草の香や満天の星の丘

7/14  箸も地(じ)の竹なる素麺流しかな

7/15  くちなはや水辺に夕のひたひたと

7/16  レモンスカッシュさらりと恋の終り告ぐ

7/17  曳船の水尾(みずお)や蒲の穂をゆらす

7/18  冷房の玻璃に表裏の生まれけり

7/19  霍乱の僧や黒衣のずだずだに

7/20  仙人掌や熱砂の国の姫の悲話

7/21  こと座へと杯を高々生ビール

7/22  かりかりと哭ぶ大地や大旱

7/23  泡沫(うたかた)に鷺の彳む大暑かな

7/24  美(は)しき死の刹那を見たり誘蛾灯

7/25  掌を合はせをれば碑に舞ふ草蜉蝣

7/26  大淀の流れ遅々たり行々子

7/27  羽もてる人うつくしやダイビング

7/28  奥里に宿る一夜や河鹿笛

7/29  島めぐる船は欠航あなご飯

7/30  南山の朝(あした)すがしき夏期講座

7/31  天草(てんぐさ)や海女のぬかづく流人墓

水無月の句綴り

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6/1   陶枕に覚めて山河の墨絵めく

6/2   昼月のただ麗郎と鵤(いかる)鳴く

6/3   寝冷え子の夢か手足の躍りだす

6/4   人絶えし刻へ投網を渡守

6/5   そよと吹く風のゆかしき芒種かな

6/6   まくなぎに好かれ無数の目に射られ

6/7   産土の神の聲なる田植唄

6/8   出目金や泪の数を計りかね

6/9   初鮎や瀬音ゆたかな峡の里

6/10  甲州の空をもろとも袋掛

6/11  なげ棄てしパセリを鶏が突きをり

6/12  箱眼鏡異界の王のごと覗く

6/13  水喧嘩にはかに雨の降りだせり

6/14  芭蕉布や織機の音のいよ古りて

6/15  行く方の闇をぐらりと牛蛙

6/16  太古へと靡く遺伝子はたた神

6/17  夏風邪の身をもて余す夜の底

6/18  子烏のすでに烏の眼で鳴けり

6/19  まだ尻の青き実梅を打ち落す

6/20  塗り終へし畔をぬるりと梅雨鯰

6/21  雨音に目覚むる夏至の日なりけり

6/22  父母の馴れ初め知らず柿の花

6/23  語り部の時になみだを藺座布団

6/24  追憶の母に似たるや白日傘

6/25  飢餓の世のありし大和や花南瓜

6/26  ゆき会ひの刻をしとどに五月雨

6/27  葛切や信太の森を尋ね来て

6/28  己の影に星の欠けらや麦藁帽

6/29  梅天を舐めてかなしき麒麟の眼

6/30  猛き鵜の女鵜匠を急かせをり




皐月の句綴り

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5/1   馬刀貝の尻か頭かひよいと出づ

5/2   種蒔のただ粛々と歩みをり

5/3   乳房(ちちぶさ)を突きて仔馬の乳こぼす

5/4   きらめきを放つ水音春の果

5/5   木々のみな雄々し名を持ち夏来る

5/6   薄暑光小犬に妊婦ひかれゆく

5/7   若夏の蝶や愛視を惜しみなく

5/8   滝壺や月下に虹を育てしむ

5/9   黒潮の黒なる色や初鰹

5/10  青葉若葉少女を森の妖精に

5/11  北國の濱はごろたや昆布刈

5/12  歳無のチヌか潮(うしお)を糸が裂く

5/13  皺ふかき木地師の敷ける円座かな

5/14  夏の夜のだらりと掌より落ちしもの

5/15  ふるさとのなつかし蚋の羽音さへ

5/16  我も欲も失せてひとりの一夜酒
         *(甘酒)

5/17  落日へヨットの影の沈みゆく

5/18  かはほりや逢魔が時のひた寄する

5/19  壊落のしるき城址や花茨

5/20  麻服のさやかな風とゆき違ふ

5/21  小満や河馬のあくびに歓呼湧く

5/22  君はいま夢の虜よアイスティー

5/23  隠れたる子等のゆらすや花かつみ
        *(真菰の花)

5/24  繡線菊(しもつけ)を咲かせ峠の茶屋昏し

5/25  逃避めく鄙の宿りやと籐寝椅子

5/26  火の國の道を急かすや閑古鳥

5/27  働けど働けどあゝ蟻の列

5/28  果たせえぬ立志笑へり柿若葉

5/29  わたつみは大きゆりかご烏賊火燃ゆ

5/30  夏葱の青さ苦さよ郷捨てて

5/31  言の葉のごと真清水のとくとくと

卯月の句綴り

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4/1   臍曲げて黙りゐる子やつくづくし

4/2   思慮ふかき鷹のまなこゐ凍返る

4/3   あな嬉し田楽の香も郷の香も

4/4   清明やひよめきの弥かろやかに

4/5   巫女舞の顎(あぎと)美し花明り

4/6   寄り添うて影をひとつに花の冷え

4/7   微睡みにそそぐ鳥語や養花天

4/8   青柳や汝は天帝のなすままに

4/9   草を摘む少女よ穢れなき空よ

4/10  目瞑りて駱駝は何を霾ぐもり

4/11  きらめくは小鮎か夕の洗ひ堰

4/12  子雀のこゑせつせつと時の隙

4/13  老いてなほぬけぬ訛りや桃の花

4/14  静脈をさぐる女医の手春の蚤

4/15  峡の子のあそびしたたか杉の花

4/16  艶唄のまだるし哀し干鱈裂く

4/17  刻々と変る日の影種案山子

4/18  天平の都まぢかき野に遊ぶ

4/19  限りある今世のならひ揚雲雀

4/20  ことさらに土のにほへる穀雨かな

4/21  四つの目の瞬時の間合ひ鶏合

4/22  星影の杏の花におぼれをり

4/23  その中に妣のおもかげ茶摘唄

4/24  子のこゑの絶えし奥里母子草

4/25  僧ひとり鰊曇の岩鼻に

4/26  大鯉の吐息つく午や春闌くる

4/27  子も魚も泥に塗るや春干潟

4/28  杣郷の荒るるにまかせ雉の聲

4/29  永日のながき吾が影もて余す

4/30  蛙子を双手掬ひに見せし子よ

弥生の句綴り

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3/1   耕人の土につぶやくごとくせり

3/2   春愉し枯木に雲のおよぶさへ

3/3   いとやはき雨にけぶるや雛の灯

3/4   山ふかき郷が自慢や蕨餅

3/5   啓蟄の足裏なにやらむず痒し

3/6   蟇穴を出づるや地軸傾けて

3/7   巣乙鳥の月下に羽をたたみをり

3/8   友よ師よ昔日へとぶ春堤

3/9   凧糸の端(は)を弟に持たせやる

3/10  かかる世の末を見むとて蝶生る

3/11  錆ふかき獣の掛罠雪解風

3/12  炭窯の崩れ凄まじ幣辛夷

3/13  雪形や日毎に里の騒めける

3/14  ゆくりなく嫁ぐはなしを春炬燵

3/15  遍路笠の影を二つとふと見たり

3/16  朝焼のやはらに桑の芽吹く里

3/17  荒東風の駱駝や眼とぢしまま

3/18  ニュートンにあらがふ夕の赤椿

3/19  竿先の空をひらひら子持鯊

3/20  小鳥もや彼岸桜に身なげをり

3/21  さざなみは風の絵手紙氷消ゆ

3/22  来し方のおもひふつふつ菊根分

3/23  葺替の空へ荒縄しめる音

3/24  発破音やみて雪崩るる響きあり

3/25  痩馬を曳きゆく奥の春祭

3/26  霞たつ野辺を花嫁行列来

3/27  潮躱すたびに傾ぐや観潮船

3/28  うらうらとこもれびゆるる弥生かな

3/29  一撃をもて初雷の遠ざかる

3/30  左手に愛を右手に風船を

3/31  三笠なる山を間近や春心

如月の句綴り

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2/1   寒灸の火を点じよと呼ばれたり

2/2   寒柝や書に栞して一日閉づ

2/3   底なしの峡の真闇や鬼やらひ

2/4   立春大吉ひかりざざめく水ほとり

2/5   行き場なき畔火の終の猛りかな

2/6   惜別の傘の重さや牡丹雪

2/7   春の田へ鍬の一打を父若し

2/8   初音してあけゆく郷の目覚めかな

2/9   紅梅や逢はぬと決めし人をふと

2/10  ゆさばりにちぢとみだれてゆくこゝろ
       *ゆさばり=ぶらんこ

2/11  潮の香をはこぶ川風白魚鍋

2/12  風を朱に染むる社や一の午

2/13  父母のなきことをしみじみ春景色

2/14  紅貝やわだつみはただ黙しまま

2/15  こま返る草やしんがり歩く癖

2/16  大海のあるを知るかに春の水

2/17  ふつと消ゆ鳥の足跡春の霜

2/18  白鳥(しらとり)の水に影おく雨水かな

2/19  背に敷ける草芳しや少年期

2/20  明日香路の時をとどめてかぎろへる

2/21  燈台の灯のばうばうと春の海

2/22  囮籠提げし子のゆく木の芽山

2/23  豺狼(さいろう)の声の谺か構ひ時
       *構ひ時=三春の生類季語で獣の交尾期

2/24  雪片の濡らす御厨子や出開帳
      *本尊が安置された寺で開かれる【居開帳】
       に対して、他の寺や場所で行われる拝観行事

2/25  貌鳥の鳴くや濁世を逆しまに

2/26  風あらば風と消えゆく胡蝶かな

2/27  片栗の花に夕べのいよ早し

2/28  川舟を舫ふ川淀だびら雪



睦月の句綴り

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1/1   天地にあはひなるもの初明り

1/2   笛太鼓獅子の乱舞をせかせけり

1/3   年玉や里の子の目のらんらんと

1/4   繭玉にふれんとややの手のをどる

1/5   風花や湯上げの鷄の羽根毟る

1/6   夜気せまる辻の易占達磨市

1/7   かりそめの火とて雄々しや出初式

1/8   鳥総松三和土に月の影射せり

1/9   成人の日や子のなきを妻が謂ふ

1/10  初場所や四股名の富士を語尾ながく

1/11  街道のとある旧家や蔵開

1/12  気ままなる天の配剤絵双六

1/13  紅白の綱の意のまま猿廻し

1/14  身軽なる己(おのれ)かなしき旅はじめ

1/15  終点は過疎の一村雪女郎

1/16  猫舌の妻よ釜揚うどん吹く

1/17  凍凪や小舟小島の時とめて

1/18  雨は夜に霙に嵯峨の抜け小路

1/19  枯菊や放香あまねし夕をふと

1/20  大寒の星ことごとく明滅す

1/21  夢の中の妣ひたすらに菜を洗ふ

1/22  ひそやかに紅侘助の一つ落つ

1/23  風つよき夜や切干大根煮る

1/24  太古からとどく絵文や寒茜

1/25  砕氷船星の座標を描くごと

1/26  霜柱離村の一戸傾ぎたり

1/27  出稼の前夜囲炉裏の火の猛る

1/28  燗酒や舌なめらかによき嘘を

1/29  朔風や吾が身ひそかに世に置きて

1/30  月影や狢住むてふ古祠

1/31  奥底を見せぬ天上雪下し

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