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如月の句綴り

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2/1   寒灸の火を点じよと呼ばれたり

2/2   寒柝や書に栞して一日閉づ

2/3   底なしの峡の真闇や鬼やらひ

2/4   立春大吉ひかりざざめく水ほとり

2/5   行き場なき畔火の終の猛りかな

2/6   惜別の傘の重さや牡丹雪

2/7   春の田へ鍬の一打を父若し

2/8   初音してあけゆく郷の目覚めかな

2/9   紅梅や逢はぬと決めし人をふと

2/10  ゆさばりにちぢとみだれてゆくこゝろ
       *ゆさばり=ぶらんこ

2/11  潮の香をはこぶ川風白魚鍋

2/12  風を朱に染むる社や一の午

2/13  父母のなきことをしみじみ春景色

2/14  紅貝やわだつみはただ黙しまま

2/15  こま返る草やしんがり歩く癖

2/16  大海のあるを知るかに春の水

2/17  ふつと消ゆ鳥の足跡春の霜

2/18  白鳥(しらとり)の水に影おく雨水かな

2/19  背に敷ける草芳しや少年期

2/20  明日香路の時をとどめてかぎろへる

2/21  燈台の灯のばうばうと春の海

2/22  囮籠提げし子のゆく木の芽山

2/23  豺狼(さいろう)の声の谺か構ひ時
       *構ひ時=三春の生類季語で獣の交尾期

2/24  雪片の濡らす御厨子や出開帳
      *本尊が安置された寺で開かれる【居開帳】
       に対して、他の寺や場所で行われる拝観行事

2/25  貌鳥の鳴くや濁世を逆しまに

2/26  風あらば風と消えゆく胡蝶かな

2/27  片栗の花に夕べのいよ早し

2/28  川舟を舫ふ川淀だびら雪



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睦月の句綴り

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1/1   天地にあはひなるもの初明り

1/2   笛太鼓獅子の乱舞をせかせけり

1/3   年玉や里の子の目のらんらんと

1/4   繭玉にふれんとややの手のをどる

1/5   風花や湯上げの鷄の羽根毟る

1/6   夜気せまる辻の易占達磨市

1/7   かりそめの火とて雄々しや出初式

1/8   鳥総松三和土に月の影射せり

1/9   成人の日や子のなきを妻が謂ふ

1/10  初場所や四股名の富士を語尾ながく

1/11  街道のとある旧家や蔵開

1/12  気ままなる天の配剤絵双六

1/13  紅白の綱の意のまま猿廻し

1/14  身軽なる己(おのれ)かなしき旅はじめ

1/15  終点は過疎の一村雪女郎

1/16  猫舌の妻よ釜揚うどん吹く

1/17  凍凪や小舟小島の時とめて

1/18  雨は夜に霙に嵯峨の抜け小路

1/19  枯菊や放香あまねし夕をふと

1/20  大寒の星ことごとく明滅す

1/21  夢の中の妣ひたすらに菜を洗ふ

1/22  ひそやかに紅侘助の一つ落つ

1/23  風つよき夜や切干大根煮る

1/24  太古からとどく絵文や寒茜

1/25  砕氷船星の座標を描くごと

1/26  霜柱離村の一戸傾ぎたり

1/27  出稼の前夜囲炉裏の火の猛る

1/28  燗酒や舌なめらかによき嘘を

1/29  朔風や吾が身ひそかに世に置きて

1/30  月影や狢住むてふ古祠

1/31  奥底を見せぬ天上雪下し

十二月の句綴り

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12/1  刻はやき温室といふ異空間

12/2  風邪に倦む妻の声音を案じをり

12/3  海鼠腸や海女の啖呵の心地よく

12/4  ふるさとや父の遺品のちやんちやんこ

12/5  けふもまた嶺をかくせりうつた姫

12/6  浅漬や白磁は彩に逆らはず

12/7  人殺す一語一句や寒北斗

12/8  みそさざい人なき里にきて鳴けり

12/9  猟銃音ひとつ消えゆく命ひとつ

12/10 沖島の影をあらはに雪起し

12/11 猫町の猫の集会十二月

12/12 鷹匠も鷹も一点見つめをり

12/13 菰巻のしんしんと夜を耐へゐたり

12/14 野末ゆく影ひとつだに冬の虹

12/15 襤褸市や昭和はすでに昔なる

12/16 どの夢を見やうか夕の浮寝鳥

12/17 凄まじや深雪に鳥の羽と血と

12/18 枯落葉きのふの上にけふを積む

12/19 米を研ぐ音の淋しや寒苦鳥

12/20 裏背戸の薄ぼんやりと雪催

12/21 狐火を見に行かうかと云ふ女

12/22 冬至湯の痩躯よ湯の香あふれしむ

12/23 数へ日の言の葉すぐに消えたがる

12/24 年木樵谿に昼餉の火を熾す

12/25 無位無官なる身を終天神へ

12/26 裸婦像の黯き眼や暮早し

12/27 つつがなく過ぎしたつきや札納

12/28 群鳥の声を寒涛かきけせり

12/29 天地の底位をひそと霜の声

12/30 農小屋の梁の古釘注連飾る

12/31 ほろほろと沈みゆく日や年の果



十一月の句綴り

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11/1  鶏鳴に目覚むふるさと秋の霜

11/2  ことさらに赤き入日や末の秋

11/3  デジャビュのごとく花野の道ありぬ

11/4  指笛の谺する里牧閉す

11/5  豆柿を啄む鳥のなかりけり

11/6  風のなき夜をほろほろと芒散る

11/7  銃眼の肌(はだえ)てらてら冬来る

11/8  嫁がざる叔母や小菊を慈しむ

11/9  帰路を急く夜の靴音冬めけり

11/10 磊落な神のまぐはひ冬星座

11/11 練炭の灰に汚れし裏戸かな

11/12 熊穴に入りてそぼつく山雨かな

11/13 荒れに荒る玄界灘や博多場所

11/14 子の屍いだく野猿や冬の月

11/15 おでん屋の灯に引力のありにけり

11/16 月日疾く逝きふたたびの枯野宿

11/17 子守唄聞かすや夜着をひき寄せて

11/18 牡蠣殻を捨てむと見れば七色に

11/19 冬の雲マリアの像に翳させり

11/20 人寝ねしあとの郷曲枯木星

11/21 沢庵漬ほどよき風を婆が読む

11/22 小雪や峡のひと日の足早に

11/23 冬帽の翳りある眼をかくしけり

11/24 ものの怪のつつむ草の戸牡丹鍋

11/25 冬耕の凹田遅々たる影二つ

11/26 蒼天をたまはる一日干菜吊る

11/27 木菟の呼ぶ闇の王国ひそとあり

11/28 舷梯を革ジャケットの駆けのぼる

11/29 潮騒のやまぬ浦宿置炬燵

11/30 枝打の鉈音峡に谺せり

十月の句綴り

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10/1  朱鷺よ朱鷺よ色なき泥を啄める

10/2  暮れるだけ暮れてほのかな秋葵

10/3  小仏のありしあたりか初紅葉

10/4  裏木戸の虫の闇へとつづきをり

10/5  秋茄子や母御嫁御の恙なく

10/6  規律あるごと藁塚の整列す

10/7  火山灰(よな)の降る國や模糊たる秋灯

10/8  川魚を盥に移す寒露かな

10/9  笑栗のこぼす夜雨のしづくかな

10/10 ほろほろと錆びゆく萩を刈りにけり

10/11 来し方の道をかくすや芒原

10/12 竈馬母はたつきの火を熾す

10/13 ブルースのやうな街の灯秋時雨

10/14 風道の弁慶草やたぢろがず

10/15 荒びゆく郷の山河や栗強飯

10/16 渋柿のたわわ熟るるにまかせあり

10/17 雁や余呉湖の里の点りそむ

10/18 草の実の飛ぶや流離を躊躇はず

10/19 月よみのひかり幾重に実紫

10/20 石投げて去りし少年秋の川

10/21 名庭の天へ鋏を松手入

10/22 足早に暮るる山里火の恋し

10/23 霜降の駅舎や人のなに待てる

10/24 影ひとつゆきつもどりつ菜種蒔く

10/25 風音になびく裾濃や竜田姫

10/26 北へやや地軸をもどし牛蒡ひく

10/27 飛鳥野の空の黒点鶸ならむ

10/28 少年のやうな少女や万年青の実

10/29 冷まじや寺の鉄扉の裸身仏

10/30 手応へのしかと匠の鯊の竿

10/31 雑木紅葉離村の屋を侵食す

九月の句綴り

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9/1   稲の香を纏うて父の帰り来る

9/2   西海の陽のたらたらと青瓢(あおふくべ)

9/3   地芝居の佳境に猫の乱入す

9/4   また巡り来し一葉の夕べかな

9/5   膝折りて息を殺して鉦叩

9/6   鼠尾草(みそはぎ)や平氏の裔の墓ひそか

9/7   任侠の映画看板秋湿り

9/8   道なりに水の流るる白露かな

9/9   日の射せば日の一筋や秋の湖

9/10  手まねくは異国の嫁御葡萄園

9/11  開け放つ牛舎の大戸鵙日和

9/12  ゆきちがふ人の小灯し狐花

9/13  童女笑へり唐黍に爪を立て

9/14  母見ゆるなぞへの畑や芋嵐

9/15  霊山に舫ふがごとき月の船

9/16  道のなき穹をたがへず鴨来る

9/17  奥琵琶の稲干す里のしじまかな

9/18  島中の家がからつぽ体育祭

9/19  無限なる穹よ流離よ草の絮

9/20  寄る辺なき鴎が1羽秋の湖

9/21  暗がりを嫌ふ少女や秋薊

9/22  鮎落ちて漠たる山河のこしけり

9/23  秋分の日差しやさしく児(やや)を抱く

9/24  道草をかくす子の裾しらみ草

9/25  地にかすか水のにほひや秋の蝶

9/26  かの人の孤影をしかと秋袷

9/27  秋燕や渡海の舟の出でし浜

9/28  阿闍梨逝くや有明月を待たずして

9/29  秋の夜のレコード盤の波打てり

9/30  捨案山子銀の翼をくれと謂ふ

八月の句綴り

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8/1   真昼間の人なき里や田水沸く

8/2   優曇華の野に踏み出すを躊躇へり

8/3   サーファーをもろとも波のふつと消ゆ

8/4   途絶えたる風のたよりや韮の花

8/5   破戒僧のごとく極暑へ墜ちゆけり

8/6   八月六日地を這ふ蟻の一途なる

8/7   まどかなる馬の眼差し秋に入る

8/8   妻留守の夜のはじかみを噛みてをり

8/9   八月九日海平らかに日をかへす

8/10  鰯網みすゞは海の底詠ふ

8/11  己が影のちろろちろろと鹿火屋の火

8/12  懸煙草くぐり身重の子が帰る

8/13  枝折戸に見知らぬ小鳥秋の朝

8/14  子等去りし夕べの河原荻騒ぐ

8/15  吾もまた群の一翼敗戦忌

8/16  残る蚊のこゑのか細く失せにけり

8/17  八月大名夜通し点る母屋の燈

8/18  南国の潮(うしお)黒々秋鰹

8/19  闇ふかき夜はことさらに草雲雀

8/20  八月の空美しく恐ろしく

8/21  なにさぐるべくすいつちよのながき髭

8/22  露草やよきことのみを胸奥に

8/23  とりどりの鳥語たのしき処暑の朝

8/24  鹿垣に沿ふ古里の小径かな

8/25  きちきちの地を蹴り草に沈みけり

8/26  夕暮れて尾花は月に靡きをり

8/27  ほのかなる潮の香りや捨扇

8/28  風生れていよよはかなし萩の花

8/29  何すべく下りし小庭や爽気満つ

8/30  眼光のきりりと鷹の山別れ

8/31  猟奇めく街の路地裏夜霧這ふ




七月の句綴り

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7/1   群生といへるさびしさ水芭蕉

7/2   バラックの屋根しらしらとさみだるる

7/3   母の忌の氷雨にけぶるなぞへ畑

7/4   岩燕ときには鄙の軒に鳴く

7/5   沈みゆく日のけだるさや百合の花

7/6   一点の序章に吐息夕蛍

7/7   雀蛾(ほうじゃく)の舌のささやく小暑かな

7/8   手をとめて在の謂れを草取女

7/9   箒木の影箒木でありにけり

7/10  夕日濃くにほふ旅路や野萱草

7/11  まひる間の水ねつとりとあめんぼう

7/12  愛憎をあらはに蜥蜴遊牝みをり

7/13  夜濯の音ややすけし遍路宿

7/14  すててこやれろれろれろと生き死なん

7/15  雷鳥もケルンも霧にねむりをり

7/16  青芒きりりと甲斐の晴わたる

7/17  幼子の空切るばかり捕虫網

7/18  御来迎万に一つを信じをり

7/19  古民家に宿る一夜や山女焼く

7/20  楊貴妃のごとくに蚊帳をくぐりをり

7/21  紫蘇の香や妣の姉さん被り見ゆ

7/22  吽形の口ひらかんとせし大暑

7/23  文月のハッパフミフミ巨泉ゆく

7/24  哀しめばいよよ哀しく蝉の聲

7/25  登山小屋夜気しんしんと被さり来

7/26  城壁に刻む國の名氷旗

7/27  丑三つの風鈴舌をたれしまま

7/28  水音のあればあそぶ子梅雨あがる

7/29  蓮咲くを待つ人影や夏の暁

7/30  とある日の女の嘘や胡蝶蘭

7/31  昔日へ馳せる足裏(あうら)や砂炎ゆる



六月の句綴り

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6/1   透きとほる宇陀の水音九輪草

6/2   沢蟹を掴みて笑顔見せし子よ

6/3   土佐沖の潮黒々鰹船

6/4   子燕の一羽遅れて嘴ひらく

6/5   野を統べる芒種の雨となりにけり

6/6   田植女の夜はみどり児を抱きねむる

6/7   蝦蟇朝な夕なを泰然と

6/8   野仏の供花の一輪梅雨の闇

6/9   海猫の鳴くや荒びゆく浦の里

6/10  軽鳧の子の蓮の浮葉をゆりかごに

6/11  遠き日の夢の一日(いちじつ)ソーダ水

6/12  雷去りていよよせつなる夜の懈怠

6/13  ゆき違ふ人のうつろや蛍狩

6/14  鬼虎魚喰はず嫌ひをふかく恥ず

6/15  島影も小舟も暫し海霧(じり)の中

6/16  雪解富士はるかや波の立ち上がる

6/17  はらからのみなすこやかや釣鐘草

6/18  蝸牛や刃のごとき薔薇の棘

6/19  巫女の汲む音のすがしき噴井かな

6/20  病葉と聞きし一葉のうつくしく

6/21  蓮の葉のただしらしらと夏至の月

6/22  兄の手の大鍬形をまぶしめり

6/23  母は子のまなこの中や汗疹癒ゆ

6/24  白靴の少女や放射線量計

6/25  十字架の影よりふいと黒揚羽

6/26  走馬燈かの世の影を濃く淡く

6/27  蠍喰ふ國より来たる女と会へり

6/28  星のなき街に灯の星ビヤガーデン

6/29  雄岳より降りくる霧や紅の花

6/30  ほの暗き森のこもり沼蛭およぐ

五月の句綴り


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5/1   巫女のふとふりむく春の名残かな

5/2   鯛網を曳くや響灘(ひびき)の潮ごと

5/3   三猿のうつろ憲法記念の日

5/4   少年のかくす傷跡修司の忌

5/5   ヴィオロンの弓しなやかに夏来る

5/6   蟭螟(しょうめい)やかぼそきこゑを常夜より

       *蟭螟=想像上の極小な虫

5/7   華やぎのなくも群れ咲く踊子草

5/8   姫鱒のひらりと森をひるがへす

5/9   風纏ふごとかろやかに夏衣

5/10  道草の小さきてのひら草いちご

5/11  水の上(へ)に卯月曇の影させり

5/12  古の都人見ゆ菜殻火に

5/13  ほの昏き蔵に鮓圧す女かな

5/14  おはぐろのぬれたる岩をはなれざり

5/15  眠そうな稚児よ葵のまつり過ぐ

5/16  薔薇に似しパラソル薔薇に佇めり

5/17  平らかな水にねむるや夜の闘魚

5/18  駒鳥や驟雨の過ぎし峠道

5/19  小満の空をながるる鳥一羽

5/20  鈍き日をかへす河馬の背夏浅し

5/21  朝靄の水滴らせ鰻獲り

5/22  夕闇の底や湧き立つ蛾の羽音

5/23  ひたひたと鳰の浮巣の打たれをり

5/24  ままごとの子の花茣蓙に招かるる

5/25  蜘蛛の子の阿鼻叫喚の別れかな

5/26  蛇の鬚の花蔭のつとうごめける

5/27  わたつみを切り裂く巨船青岬

5/28  昏きより出でて昏きへ羽蟻の夜

5/29  ダービーの華やぎに身をゆだねたり

5/30  月光にねむる奥社や袋角

5/31  茅花流し雅楽の舞のたをやかに


四月の句綴り

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4/1   泥沼の恋あり闇を這ふ蛙(かわず)

4/2   既視感といへる不可思議連翹忌

4/3   屋根替の梯子をのぼる女かな

4/4   あえかなる花のあはひを鳥交る

4/5   利休忌や生きとし生けるものの翳

4/6   山霧のしとど濡らすや忘れ角

4/7   東雲や麻疹の癒えし児の笑ふ

4/8   春の蚊の魂なきごとく揺蕩へり

4/9   一水の日毎きらめく柳陰

4/10  小鬼大鬼安楽花(やすらいはな)に囃されて

4/11  蝶と化す菜の花あらん時の隙

4/12  闘鶏の血の跡しるき黄土かな

4/13  十三詣ちらと少女を見遣りをり

4/14  夜の風の攫ふ残花のひとひらよ

4/15  吾を呼べるかぼそき声や春の虹

4/16  目薬にひらくまなこや木の芽晴

4/17  青海苔や波の形の波の影

4/18  銀杏の花や旅なる日の疾くと

4/19  木苺の花や月降る岨の道

4/20  眠りたる子を背に帰る磯遊

4/21  ほこほこと土のふくらむ穀雨かな

4/22  暮れがての里やかそけし鷽の声

4/23  処女受胎てふ奇跡ありなんうまごやし

4/24  赤き爪もてネーブルを剥く女

4/25  笛の音に似し風音や熊谷草

4/26  おたまじやくし日のある方へ歩みゆく

4/27  桜桃の花や真白き夜の底

4/28  亡国の都ありなんかひやぐら

4/29  地の声に耳かたむけて翁草

4/30  遠き日のほつりほつりと忘れ潮

三月の句綴り

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3/1   黒北風の浜に老爺の遠眼差し

3/2   春暖炉あるかなきかの火をつつく

3/3   新たなる恋かも知れず春衣

3/4   空に手をふれたがる子や春夕焼

3/5   啓蟄のまづは鶫の腹満たす

3/6   土筆摘むことに飽きたる二人かな

3/7   きりきりときりと百枝(ももえ)の芽ぐみけり

3/8   誰がために出づ桃園の昼の月

3/9   蘖や帰るに遠き父母なき地

3/10  悔恨を呑みし眼や山葵漬

3/11  かたかごの花や母恋ふ僧ひとり

3/12  鳥雲に人は荒野(あれの)をさまよへり

3/13  高畑を抱く朝霧春大根

3/14  合格子不合格子と相寄れり

3/15  ぎこちなきピエロの笑みや凍返る

3/16  ふらここの力かぎりに哀しめり

3/17  放たれし駿馬雪間の草を食む

3/18  夢の世のありやと蜥蜴穴を出づ

3/19  神の座の山に礼して苗木植う

3/20  水分けてゆく春分の魚の背ナ

3/21  親鳥の痩せすさまじや雀の巣

3/22  花待てる山や気息の充ち充ちて

3/23  何もかも夢まぼろしや涅槃雪

3/24  宵闇のしだれ櫻やよく揺れて

3/25  隠沼(こもりぬ)の泰然自若氷解

3/26  泣く妹を負いてゆく坂月朧

3/27  貝寄風や唐紅の血の系譜

3/28  あまたびび夜を裂く雷や雁供養

3/29  春林の空にあそべる木魂かな

3/30  日出づる國や礫のつばくらめ

3/31  ミモザ撮る人へミモザのふりそそぐ

二月の句綴り

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2/1   湯気立てて美しきのんどを濡らしをり

2/2   梅といふ形に梅の咲き初むる

2/3   よせ返す護摩の焔(ほむら)や節分会

2/4   水鳥の羽音ゆたかに春立てり

2/5   春寒や胸あらはなる乙女像

2/6   強東風や愚かに人の歩みゆく

2/7   有明の夕日もろとも白魚網

2/8   脚弱の妻に合はす歩遍路杖

2/9   たかぶれる火をなだめつつ畦を焼く

2/10  帰心なほ三椏の芽のふつふつと

2/11  味噌玉に風きりきりと木地の里

2/12  ぎこちなく終る一日や田螺鳴く

2/13  先づは香をしかして苦味焼栄螺

2/14  相聞をかはす三山薄霞

2/15  魚は氷に上りて月のしんしんと

2/16  潮騒のとどくや馬刀貝(まて)の穴ふかく

2/17  春菊を摘みし手の香や夜もなほ

2/18  児のよれば児にふれなんと枝垂梅

2/19  糸舐めてさぐる雨水の針の穴

2/20  峨眉ぬらす雪の一片多喜二の忌

2/21  川筋の灯の点々と獺祭

2/22  春の鵙ときにせつなきこゑあげて

2/23  沈みゆく日ののつたりと浅蜊汁

2/24  春の夜や父ともなれず母ともなれず

2/25  万葉の杜にねむるや孕鹿

2/26  潮焼けの掌のわらわらと白子干す

2/27  遠き日の記憶さだかに蓬萌ゆ

2/28  やはやはとわが身ながれむ春の闇

2/29  槌音も瀬音も凛と二月逝く







一月の句綴り

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1/1   あかときの空うるはしや大旦

1/2   初買の妻よ倹しきものばかり 

1/3   三日はや白湯の旨くてならぬなり

1/4   息あらき禰宜の烏帽子や鞠始

1/5   奉るほのかなる火や窯始

1/6   小寒や天使は羽根を閉ぢしまま

1/7   うすれゆく母のおもかげ薺打つ

1/8   四方の目をひとり占めなる春着の子

1/9   ちはやふる神の恋せし歌留多かな

1/10  羽子板やただすこやかであれかしと

1/11  音もなくあけゆく一里淑気満つ

1/12  裏山に鵺の鳴く夜や榾あかり

1/13  ひとり子のひとりあそぶや福笑

1/14  歌会始め言の葉天を翔けるごと

1/15  左義長の焔や炎そだてしめ

1/16  風を名でよぶ村里や成木責

1/17  寝静まる浦の一戸や寒波急

1/18  まだおなじ小枝をふくら雀かな

1/19  氷海や無音なる夜の怖ろしき

1/20  内地てふ人や石狩鍋囲む

1/21  大寒の空一枚を捨鏡

1/22  どかと降る雪や山戸の灯を昏く

1/23  猟夫いましづかに吾子を抱きをり

1/24  かりそめの凍滝ぐわんと屹立す

1/25  言霊の欠片こぼすや寒北斗

1/26  雪眼鏡はるかの海を映したり

1/27  避寒宿妻のねむりを深くして

1/28  寝返れば背ナのひやりと雪女郎

1/29  逃亡のごとく雁木の町をゆく

1/30  皺ふかき掌やぽつねんと囲炉裏守る

1/31  湯気立てて美しきのんどを濡らしをり


師走の句綴り

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1 淋しらの夕のただ中木の葉散る

2 枯蔓の日毎に空を深くせり

3 寒鶯や道の尽きたる杣の里

4 味噌搗や郷のをみなの逞しく

5 古民家の梁を燻すやさくら鍋

6 狐火を点せし村の眠りをり

7 大雪や竃に小さき火を熾す

8 がうがうと山の哭く夜や葛湯吹く

9 聖母子の影古りゆくや冬の園

10 賞与なき吾が身の丈を妻に謝す

11 俗界の色には染まず冬の鵙

12 凍天の昨日今日また明日ありや

13 勇魚突く土佐の男の話かな

14 雲ひくき北の浦里墓囲ふ

15 皓歯もて皮手袋を脱ぐ女

16 迷ひつつ拓く吾が道寒昴

17 月下ひそかに凍土の太りゆく

18 遠き日のたつき思へり掛衾

19 島嶼へと越したる友の歳暮かな

20 神事のごとく炭𥧄に火を入れにけり

21 こまやかな雨なる終大師かな

22 たまゆらの黄金なしたり冬至の陽

23 遺されし者をへだつや冬霞

24 埋火や忘れ去りたき咎をふと

25 寒雲雀なるや野末に沈みしは

26 寄宿舎の窓の灯ひとつ冬休

27 夜をへだつ玻璃に吾が影年の果

28 老いの掌の祷るごとくに注連を綯ふ

29 頬に手をそへたる弥勒冬ぬくし

30 父祖の地をつつむ木霊や斧仕舞

31 ままならぬ心(うら)の奥底獏枕


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