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霜月の句綴り

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11/1   鯖雲や老いの哀歓なきごとく

11/2   虚ろなる貌もて秋の蠅交尾む

11/3   ふるさとは風の通路熟柿落つ

11/4   山霧のこゑに急かるる冬用意

11/5   箸のまづもつてのほかへ走りけり

        *もってのほか=菊膾

11/6   追憶の日々とあそぶや夕紅葉

11/7   内鍵の音のことりと秋終る

11/8   立冬の三和土に鶏の影差せり

11/9   素荒なるお国言葉や冬の海

11/10  茎漬や母は郷よりほか知らず

11/11  今生の冥加を得たり冬茜

11/12  むささびのふたたび月をよぎりけり

11/13  南山のはやき朝(あした)や落葉掃く

        *南山=高野山

11/14  雲の飛ぶ杣の切畑麦を蒔く

11/15  啄むは淀のうたかた残り鷺

11/16  小さき灯を抱きて綿入れ縫ふ母よ

11/17  水神に先づ手を合はせ川普請

11/18  紅葉子を焼くや海鳴り遠くして

        *紅葉子=鱈子

11/19  鉤針のぬめと鮟鱇の吊るし切り

11/20  千年を眠らぬ仏小夜時雨

11/21  野兎の耳たてて聞く月の聲

11/22  石炭のほむら太古の色なせり

11/23  小雪の空や烏のただならず

11/24  冬麗や青の時代のピカソふと

11/25  熊狩の一点射抜く猟夫(さつお)の眼

11/26  風の子のこゑのあそべる冬田かな

11/27  初冬の谿を切り裂く発破音

11/28  寒鯉の動けば空のゆるるなり

11/29  仄暗き廚に母や三の酉

11/30  狼の哭くや荒星かぎりなく

神無月の句綴り

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10/1  笹山の荒れすさまじや蜾蠃追(すがれおい)

      *スズメバチの幼虫の採取法

10/2  秋狂言夜の帷をおろしけり

10/3  露けしや路傍の石も吾が魂も

10/4  手を足を奏づるごとく稲を扱く

10/5  秋濤や流人墓みな海へ向く

10/6  月下の森鹿のまなこの夥し

10/7  唐茄子を斬れとて妻に呼ばれけり

10/8  とある日のちちろのかたる悪巧み

10/9  ランボーの詩片難解秋刀魚焼く

10/10 枸杞の実の空の青きを哀しめり

10/11 われからや耳をふさげば血の聲す

      *われから=藻に住む蟲

10/12 早稲酒の大書ののぼりはためけり

10/13 八千草の一草一花ひそやかに

10/14 橡の実や街の暮らしも見飽きたり

10/15 いにしへの宮へつづくや刈田道

10/16 秋耕の老爺に山の影迫る

10/17 父と子の相似し背ナや鯊日和

10/18 大地剝ぐごとくに蔓をたぐりをり

10/19 今昔(こんじゃく)のこゑを聴かせよ蟲合

10/20 穭田に入りて笛吹く女かな

10/21 蟷螂やひねもす昏き空のあり

10/22 隠れ住む平氏の裔(こはな)一位の実

10/23 己が影をひたすら舐めて秋の蠅

10/24 鯔子(からすみ)や島に悲哀の物語

10/25 霜降や錆のふかまる獣の檻

10/26 東雲の峰や坂鳥波なして

10/27 ゆるやかに澪ひく巨船秋土用

10/28 裏山に狐狸の鳴く夜や胡桃割る

10/29 空せまき峡の一村星流る

10/30 座す石にほのとぬくみや芋煮会

10/31 さびしらの沼のさざなみ木の実落つ





長月の句綴り

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9/1  相寄りてかさなる影や夢二の忌

9/2  水をのむ玩具の鳥や秋じめり

9/3  ふるさとは大きゆりかご芋嵐

9/4  実椿や島めぐりとて小半時

9/5  先づ空の広さをはかり庭木刈る

9/6  かかる世をゆきつもどりつ鬼やんま

9/7  いにしへの人の立ちたる秋夕焼

9/8  天地の音なく明くる白露かな

9/9  己が影を踏んでゆくなり野路の秋

9/10 花園へクルスの影の射しきたり

9/11 一村に一寺一社や豊の秋

9/12 手掴みの真鰯を分け呉れしかな

9/13 泥水にあそぶ土鳩や秋寂し

9/14 朝顔の実を薬袋(やくたい)に十粒ほど

9/15 アダムよりエバの饒舌葡萄園

9/16 落日の歪みなしたり秋の池

9/17 先駆けの鴨か水面に争へる

9/18 蓑虫の鳴くや畝傍の風の中

9/19 父祖の地のかがやきませり今年米

9/20 静てふ月の海の名草雲雀

9/21 岩影にまぎるる秋の蛙かな

9/22 生き死にの恋も昔や西鶴忌

9/23 秋分のわけても白き供華(くうげ)かな

9/24 遠山に出でし瑞雲大根蒔く

9/25 秋水のかなしくあれば詠ふなり

9/26 木犀の夕べしづかな雨を呼ぶ

9/27 秋麗や悪意なき子の悪だくみ

9/28 海流は地球の血汐鳥渡る

9/29 風の色風の香風の谷の中

9/30 日うすき峡の一戸や煙草干す


葉月の句綴り

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8/1  陸奥はまだ知らぬ國海鞘を喰ふ

8/2  青柚子や産土神も吾も古りぬ

8/3  吾が無為を見透かす猫や暑気中り

8/4  蟬死して芥のごとく掃かれけり

8/5  ありし世の夢のごとくに遠花火

8/6  目を閉ぢて水あぶ鳩や広島忌

8/7  五位鷺の秋待つごとく佇めり

8/8  玉石をあらふせせらぎ今朝の秋

8/9  桔梗や月下にねむる杣の里

8/10 幼子の残る暑さをよろこべり

8/11 星々の夜々を眠らずいぼむしり

8/12 荒磯の夜目にも白し秋怒濤

8/13 逆縁のありし一戸や門火燃ゆ

8/14 はらからの恙無きこゑ蓮の飯

8/15 風なくもゆらぐ燭の火魂祭

8/16 星一つきらめく夕べ送り盆

8/17 影法師踏む子のあそび秋の里

8/18 薯蕷(じょよ)抜きし跡の地球を覗きみる

8/19 鯊船のゆれるともなくゆれてをり

8/20 二星の妻は飛雲に隠れをり

8/21 がさごそと大地くすぐり蝗捕

8/22 寝付かれぬ飛騨の旅寓や牡鹿啼く

8/23 雀等のこゑ湧く処暑の朝かな

8/24 どの道をゆけど穂草のからみつく

8/25 山の名を冠する風や実山椒

8/26 耳朶になほ余韻のごとく蟲時雨

8/27 つかの間の恋につくすやつくつくし

8/28 盆東風や蓮の一葉の帆のごとく

8/29 一条の夕日にぬれて秋雀

8/30 還らざる島の間近や実玫瑰

8/31 黄金なす稲穂に黄金なす入日
 




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文月の句綴り

20150803

7/1  虹を指す子や虹色の瞳もて

7/2  愚鈍なる吾にかへるや昼寝覚

7/3  遠き日の災禍の記憶水見舞

7/4  その女ほそき指もて蝦蛄喰らふ

7/5  潮風と時空とアイスコーヒーと

7/6  ラベンダー触れたる指の夜も匂ふ

7/7  遺伝子のどこか欠けたる小暑かな

7/8  道草の妹よ蚊帳吊草裂かん

7/9  此処に生き此処に死にゆく青田波

7/10 浦里に宿る一夜や握り鮨

7/11 蛇の眼の残れる草を打ちはらふ

7/12 砂山に大志を記する晩夏かな

7/13 母いつももんぺ姿や鳳仙花

7/14 空蝉を吾が掌にのせてくれし子よ

7/15 少女まだ悲恋を知らずかき氷

7/16 今生の咎を曝すや大西日

7/17 その時の来たりて湯気を焼茄子

7/18 夏の夜のどの煩悩に狂はうか

7/19 黎明の魁なるや紅蓮

7/20 身ほとりの影濃き土用太郎かな

7/21 海見ゆる露台に白き椅子二つ

7/22 大海をたゆたふ夢やハンモック

7/23 自堕落を絵に描くごとき大暑かな

7/24 鉢裂いて出づる芽のあり不死男の忌

7/25 野馬追の若武者を追ふ乙女の眼

7/26 石塊(いしくれ)をよすがに夜の青蜥蜴

7/27 白装の母子と野辺に行き違ふ

7/28 名を問へば屁糞葛と答へけり

7/29 昼の蚊のひそむ寺領の厠かな

7/30 岨路の歩を乱鶯に急かさるる

7/31 雨止むを待ちてふたたび子の神輿




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水無月の句綴り

20150630

6/1  車前草(おおばこ)の花や流離の身をうれふ

6/2  立葵一花は天に触れてをり

6/3  流さるることを厭はず水すまし

6/4  結葉の空奪ひ合ふ手の無数

6/5  首頻りなり葬の家の扇風機

6/6  山の井のかをりいや増す芒種かな

6/7  どくだみの花の盛りをだれ知らず

6/8  風鈴売とともに信号待ちてをり

6/9  青鮫のざんぶと哭きてさみだるる

6/10 少年に返る一瞬栗の花

6/11 海神(わだつみ)の使徒のごとくに飛魚とべり

6/12 日覆や日に一便の船を待つ

6/13 水虫や進化てふものあざ笑ふ

6/14 せせらぎを子守唄とし川蜻蛉

6/15 天平の風を海馬へ籠枕

6/16 青鷺の動くともなく動きけり

6/17 ふり返り見れば蒼しや夏灯

6/18 子のこゑに羽うまれたる水遊び

6/19 赤々と闇にとけゆく夜店の灯

6/20 銅鑼の音のひときは高く梅雨晴間

6/21 父が投げし早苗を母は黙々と

6/22 のほほんと世の片隅を夏至ゆうべ

6/23 汗ばめる鎖骨を出でし吐息かな

6/24 神仙の白馬と会へり夏木立

6/25 蛍火に放物線やつうと消ゆ

6/26 誰も知らぬ風の行方や矢車草

6/27 鴨の子のひとつの水尾にしたがへり

6/28 荒梅雨の闇をひたすら見つめをり

6/29 子をもたぬ人を照らせり花柘榴

6/30 大岩をたたく飛沫やカヌー過ぐ





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皐月の句綴り

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5/1  黄昏の中へ中へと春の鴨

5/2  独り子や雀の槍を吹き鳴らす

5/3  花烏賊や陸(くが)に浮かべる富士の嶺

5/4  なにごともなきかに尿(ばり)を競べ馬

5/5  山峡の裔(こはな)つなぐや初のぼり

5/6  万物に立夏の影の生まれけり

5/7  母の名を呼ばざる父や花菜漬

5/8  滝壺にひそめる魚の涯(はて)をふと

5/9  昔日にとどかぬ草矢放ちけり

5/10 母の日の軒端すずめのよく鳴けり

5/11 夏蕨懸け樋の水に浸しあり

5/12 海風のいまは夕風船遊び

5/13 茄子漬の高貴なる紫を深くせり

5/14 身をまかすデッキチェアーや夏はじめ

5/15 役牛の葵ふみゆく祭かな

5/16 人去りし沼のしじまや花あやめ

5/17 海ほほづき少女の嘘をゆるしけり

5/18 小骨切る音かろやかや鱧の宿

5/19 ジオラマのごとき鉄路や緑さす

5/20 山雀のよく鳴く雨余の山家かな

5/21 小満の溢水いよよ高鳴れり

5/22 風音を友の声とも樟若葉

5/23 白玉や子の哀歓を共にして

5/24 芋虫の匍匐前進とは笑止

5/25 物の怪を語る媼や青時雨

5/26 競市の桶をゆるりと錦鯉

5/27 身ほとりに魚の舞ふ夢水中り

5/28 気塞ぎのひとつ失せたり夏の月

5/29 幼鳥のこゑ許されよ夜の新樹

5/30 蚊柱の狂喜乱舞にぶち当たる

5/31 天使魚夜の静寂を堪へてをり





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卯月の句綴り

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4/1  ラマンチャの男一途や万愚説

4/2  熊蜂の己が重さを持て余す

4/3  九九がもう唄へるんだね水の春

4/4  春月や母貝のねむる阿古屋湾

4/5  清明や幼子はこゑ惜しみなく

4/6  風あれば風の形に糸柳

4/7  首洗池の日溜まり蝌蚪の紐

4/8  チューリップ夜はかたくなに口とぢて

4/9  聖母子の影やはらかに春の芝

4/10 藍微塵妊婦しづかに書を閉づる

4/11 だまし絵の水のぼりゆく春の月

4/12 母逝きしなぞへの畑や麦青む

4/13 昼よりも夕べあかるし花馬酔木

4/14 一村の靄にねむるや春の山

4/15 春興の手足に先を急かさるる

4/16 山査子の花や仇なす恋ひとつ

4/17 荒草(こうそう)の衣をしろがねに春の露

4/18 雲雀野にあそぶや光まとひつつ

4/19 湖を分つ小舟や春深し

4/20 山河なほ青くけむれる穀雨かな

4/21 束の間の快楽に似たり春霰

4/22 ライラック乙女の像のいよ古りて

4/23 風炎(ふうえん)や沖にたゆとふ海人小舟

     *風炎=フェーン現象

4/24 永き日のこきりと鳴りし首の骨

4/25 野にあれば童女なりしよ蓮華草

4/26 春曙やはらかき手に触れもせで

4/27 潮干潟カンブリア紀もデボン紀も

4/28 頬刺の藁に蝦夷(えみし)の海にほふ

4/29 浦里の母たくましや磯菜摘

4/30 クレソンや生きよ生きよと水のこゑ

4/31 黄昏にただよふばかり春の鴨


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弥生の句綴り

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3/1  段畑に嬉々たる母や土の春

3/2  此処よりは神の領域わらび採

3/3  幾人(いくたり)の哀別見しや古雛

3/4  梅東風や鉦の音をひく野辺送り

3/5  浜に火を囲む男や若布刈

3/6  啓蟄や児は汚るるを厭はずに

3/7  天球をまはす神の手地虫出づ

3/8  トゥオネラの白鳥引くを哀しめり

3/9  実をつけしものもちらほら苗木売

3/10 春意なほ飛べざる鳥の羽ばたけり

3/12 いにしへの野にあるごとく蓬摘む

3/13 たらの芽や山居の刻のたらたらと

3/14 初蝶の曳きたる影を見失ふ

3/15 蒼穹の青の詩片や犬ふぐり

3/16 万別の畑のまだらや去年の雪

3/17 異なものをオブジェのごとく鴉の巣

3/18 さざ波にわけなく押され浮氷

3/19 中天に彩雲見たり入彼岸

3/20 ピカソとて青の時代を鳥の恋

3/21 春分のわけても児(やや)のかがやけり

3/22 草の芽の草の芽としてただしづか

3/23 渦潮のゆるびて吾を取り返す

3/24 春禽の狂へり甘き空の香に

3/25 紀ノ國の潮早しや初櫻

3/26 永き日の縞馬にある躁と鬱

3/27 花鳥の名を問ふ人や昼の月

3/28 はこべらや故なく家を棄てし友

3/29 巡礼の笠に触れたり紅枝垂

3/30 茎立や同胞(はらから)のみなちりぢりに

3/31 春塵や眼光ませる仁王像










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如月の句綴り


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2/1  野施行の子が霜路をもどりくる

2/2  鈍色をかへす日面冬の果

2/3  護摩壇の激つ火の舞鬼やらひ

2/4  立春の音ゆたかなる山の水

2/5  寒明の谺となりし発破音

2/6  何せむと野におり立つや春鴉

2/7  海苔の香にまみれて舟のもどり来る

2/8  あはあはと雪ふる夕べ針納

2/9  壷焼や浦うつくしき伊勢の國

2/10 母と子の影よりそふや浅き春

2/11 耳朶を刺す風の記憶や半仙戯

2/12 夕迫る峡の一戸や春子採り

2/13 消えしかと思ひし野火のまた走る

2/14 春雷やまだ見ぬ宙の底方(そこい)より

2/15 邂逅の夜を一点の紅椿

2/16 相寄りて思ひは異に春灯

2/17 淡雪のふり頻く余呉の汀かな

2/18 野老掘り雲は高嶺をやすやすと

2/19 農小屋に錆のにほへる雨水かな

2/20 頸椎のこきりと鳴るや春の暮

2/21 蒼穹に枝さし交し木の芽張る

2/22 風はもう鳴りやみたるよ懸り凧

2/23 まれびとの声ふくらむや梅見茶屋

2/24 身の丈にあへる生活(たつき)や梅真白

2/25 青饅や遠くなりゆく母の恩

2/26 地芝居のはね淡月の畦帰る

2/27 きららかにこぼるる水の音ぬくし

2/28 愚鈍なる雲を孕みて二月果つ



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睦月の句綴り

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1/1  来し方の今は昔や年立てり

1/2  すずろなるすずめのこゑや初寝覚

1/3  御降りの音なく濡らす大河かな

1/4  なにせむと立つや四日の橋の上

1/5  太箸や産んでくれたる母の恩

1/6  小寒の雲やひかりを纏ひつつ

1/7  人日の日の射しくもる文机

1/8  つぶやきに似たり媼の手毬唄

1/9  雲に雲ぶつかり寒に入りにけり

1/10 鵺の鳴く闇を背(そびら)や焚火守

1/11 修験者の法螺に始まる鏡割

1/12 風邪声の女の隣る夜汽車かな

1/13 鳥墜ちて凍湖と星のひかり合ふ

1/14 遠ざかる母のおもかげ根深汁

1/15 海鳴りを遠く郷里の寒漉女

1/16 群青の天ぞ知りたる垂氷かな

1/17 吹雪へとヘッドライトの突き刺さる

1/18 枯山の一戸かぼそき灯を点す

1/19 褞袍着て用あるごとく外に出でり

1/20 大寒や野猿のわたる峡の空

1/21 ゆくあてのなき身を押せり枯葉風

1/22 おのころの海たひらかや野水仙

1/23 寒暁の竈にけふの火を熾す

1/24 猟夫いま子を高々と抱きあぐる

1/25 此の橋を渡れば異郷霜畳

1/26 寒苺摘む妹の手のかぼそけり

1/27 雪沓の手をとり山の分校へ

1/28 一文字のひときは白き一字かな

1/29 霧氷もや朝日の綺羅を零しをり

1/30 あやふやな海馬の糸や梅さぐる

1/31 柴垣を夜毎たたくや北颪


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十二月の句綴り

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12/1  蒼穹へ火を吐くごとく鶴啼けり

12/2  一片を死水に落し冬桜

12/3  時雨忌の靴紐かたく結びけり

12/4  落柿舎を問へば指さす時雨虹

12/5  幸ひのあるかに集ふ冬日向

12/6  濡れそぼつ芭蕉生家や枇杷の花

12/7  大雪の郷よりとどく畑の物

12/8  星々をゆらせてゐたる枯木かな

12/9  消防車去りて夜明けの始まれり

12/10 寝落ちたる太郎次郎や雪月夜

12/11 雪嶺の襞にあやなす入日かな

12/12 夢にまた妣のこゑ聞く風邪心地

12/13 絨毯にあり捨て去りし日の名残

12/14 瘦せ犬をつなぐ鉄鎖や寒北斗

12/15 鱈汁を啜るや昏き海見つつ

12/16 日を恋うて日に逆ろうて寒牡丹

12/17 安意なき日や凍天を仰ぎ見る

12/18 血の澪をひく幻の捕鯨船

12/19 皹の指でめくるや「罪と罰」

12/20 山影を濡らす山湖や暮易し

12/21 虎落笛闇に目玉をさらしゐて

12/22 灯を点し舌口すすぐ冬至かな

12/23 足跡を追へどこゑなき寒さかな

12/24 夜の底の危うき寄す処冬林檎

12/25 諸人の去りてなほ濃く聖夜の灯

12/26 裏山の父が榾木やよく爆ぜる

12/27 見えぬ星あまた隠せり冬銀河

12/28 淡海の面を凍雲のうごかざり

12/29 燈台の灯のきりきりと年詰る

12/30 霜夜ゆく影に覚えのありにけり

12/31 言の葉をつむぐうつつや年の果

十一月の句綴り

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11/1  老農の風読む秋の別れかな

11/2  露草の蔭より小さき夢拾ふ

11/3  栗虫の穴ある栗を拾ひけり

11/4  山ふかき湯里の暮色ぬくめ酒

11/5  大川のほとり夜寒の灯が一つ

11/6  火の國のけむり吐く山土瓶蒸

11/7  立冬の河原や椋の群翔てり

11/8  海鳴りをちかく行旅の方頭魚

11/9  冬水や杣のたつきの一途なる

11/10 月明の帆のごとくゆく熊手かな

11/11 蕎麦掻や母は郷よりほか知らず

11/12 青鷺の歩み遅々たり冬はじめ

11/13 むささびのふたたび月をよぎりたり

11/14 うつつなき蝶の影ひく小六月

11/15 里山の午や空稲架に蒲団干す

11/16 初霜をゆくは安寿か厨子王か

11/17 白拍子住みたる庵や実千両

11/18 壁越しのくしやみ聞こゆる朝まだき

11/19 木守柿古老に風の名を問へり

11/20 返り咲く花に親しき虚空かな

11/21 かいつぶり海に常世のあるごとく

11/22 モノトーンめく小雪の天も地も

11/23 大淀川の澱の末枯るる寒暮かな

11/24 真青なる風に鎌ふる枯蟷螂

11/25 楼閣の雨にけぶるや三島の忌

11/26 夢捨てて皮ジャンパーの重たかり

11/27 大根引き尻もぞもぞとさせてをり

11/28 鵺鳥のこゑの透けくる夜の襖

11/29 國引きの神立つ浜や冬怒濤

11/30 太古へと還るにほひや落葉焚








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十月の句綴り

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10/1  山風を采の目にして障子干す

10/2  丼に盛られ艶めく筋子かな

10/3  白菊やおもかげの皆モノトーン

10/4  海光の闇にまぎるる帰燕かな

10/5  草の実のとんで暮色をのこしけり

10/6  妹が背をせがむ山路や十三夜

10/7  老蝶のなほきららなる翅もてり

10/8  嬰児の産毛きらめく寒露かな

10/9  花蕊を這へる葉虫のさま見たり

10/10 月蝕の尽きて足下の虫すだく

10/11 万葉の歌くちずさぶ稲穂かな

10/12 ゆり椅子にブッセの詩片小鳥来る

10/13 深秋や万の目をもつ慈母地蔵

10/14 日輪の大いなるかな吊し柿

10/15 吾になほ生きよ生きよと鶴渡る

10/16 伝世の井戸が自慢や荒走

10/17 白馬ながき影をひきゆく秋意かな

10/18 秋水の淋しらに耐へ忍びたり

10/19 大いなる野猪や罠の錆を噛む

10/20 杉の実や鎮守の杜に子の遊ぶ

10/21 蒔くあてのなき種を採る夕べかな

10/22 母恋へど母のこゑなき秋の空

10/23 霜降の身ほとりに添ふ火影哉

10/24 日の本の日の香たつぷり今年米

10/25 父のなき父が裏山しめぢ茸

10/26 実南天児のある家の児の匂ふ

10/27 残菊の淡き影おく古刹かな

10/28 潮の香のをみな朱欒(ざぼん)を真二つに

10/29 紅葉且つ散る僧正の戯画の上(へ)に

10/30 手にしたる是は虚栗(みなしぐり)かも知れず

10/31 木の実時雨おくれがちなる吾を急かす




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九月の句綴り

20140930.jpg



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9/1  実柘榴に問ふ良きことと悪しきこと

9/2  老生の鋏遅々たり秋手入

9/3  野葡萄や行者の駈ける岨の径

9/4  野のこゑをつむぐ絵筆や秋涼し

9/5  有りの実や産土神は水の神

9/6  夕せまる紬の里やこぼれ萩

9/7  田廻りの農夫螽を踏みつぶす

9/8  ありていに申し候ふ屁こき虫

9/9  十六夜の東塔影となりゆけり

9/10 田の色に溺るる村の鎮守かな

9/11 爽涼や帆船は風を欲しきまま

9/12 秋蒔を終へたる畑の静寂かな

9/13 レオナール・フジタの白や秋の声

9/14 色あはき母のおもかげ曼珠沙華

9/15 雲に名のありて簾の別れかな

9/16 死に近き人を見てをり鬼薊

9/17 自ずから歩む神馬や月の浜

9/18 露草や母に悲恋の昔あり

9/19 人類の始祖は猿人秋愁ひ

9/20 十字架の影をよこぎる穴惑ひ

9/21 山肌を剥ぎとるごとく藷掘れり

9/22 ゆり椅子にゆるる日の斑小鳥来る

9/23 秋分のわけても風のよかりけり

9/24 死者生者語り合ひたる星月夜

9/25 数珠玉や妹を背負へばあたたかし

9/26 見せくれし花圃に真白き椅子ふたつ

9/27 秋水の吾が掌にふれて壊れけり

9/28 雲へゆく一本道や豊の秋

9/29 子が見せし虫籠の底冷ゆるなり

9/30 山神のこゑ梳る下り簗


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